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現パロ趙孔。二人はお付き合いをしていて、一緒に住んでいるようです。仕事で留守にしてた孔明が一カ月ぶりに帰ってきたようです。ほのぼのというかなんというか。暗くはないんで安心してください。
冬十二月。この地方ではこの月あまり雪は降ることはないが、乾燥した寒気は肌を突き刺すように冷たい。
特にそれは夜ともなればなおさらで。ひっそりと静まり返った駅のロータリーの隅で、趙雲は恋人の帰りを今か今かと待ちわびながら愛車の車内をガンガンに暖めていた。線の細い恋人にこの寒さは酷だろうと。少しでも早く人心地ついてもらいたいと思って。
ちらりと備え付けの時計を見やる。もうそろそろ、電車が入ってきてもいい頃合いだ。すると定刻通り、恋人が乗っている電車がホームへと滑り込んできた。そしてケータイがメールの着信を告げる。素早くメールを開くと短い文章が。
『もうすぐ着きます』
すぐさま大急ぎで返事を打つ。『ロータリーで待ってます』。
送信が完了してしばしの沈黙。ほんのわずかな時間でも恋人のことを考えてしまう。今はホームに降りたのだろうか、それとも改札に向かっているのか、ひょっとしてもうこのロータリーへの階段を降りているのではないか。
数分後、彼が姿を現した。大きめのスーツケースを重そうに運びながら、最後の一段を降りきると溜め息をつきつつスーツケースを地につけた。きょろきょろと此方を探しているようだったので、ライトをパッパッと点滅させて合図を送ってみる。すると目聡い恋人はすぐそれに気付いたようで、小走り気味に此方へと歩み寄ってきた。それを、車を降りて出迎える。冷たい夜気が肌に刺さるようだったがそんなのは問題ではない。
ひと月ぶりに再会した恋人が、スーツケースも放り出してこの腕に飛び込んできた。
「おかえりなさい、孔明」
「ただいま、子龍」
じんわりと染みるように、恋人の熱が伝わってくる。
「寒くありませんでしたか?」
そう問うと可愛い恋人はふるふると頭を振った。久方ぶりに見た、自分の前でだけ見せる幼子のようなその行動に、つい頬が綻ぶ。
「嘘はいけませんよ。ほら、こんなに冷たい」
白い頬に手を伸ばすと、柔らかな感触とは一転、きめ細かな肌は氷のように冷たくなっていた。しかしそれでもこの人は違う違うと首を振る。
「だって、貴方の腕の中にいるから。」
だから寒くなんてありません、とはにかみながら恋人が見上げてくる。そんな可愛いことを言われたら我慢がきかなくなるじゃないか。ひと月も触れ合えずに耐えてきた男の欲望が目を覚ましてくる。
が、そこは場所柄もわきまえ、欲望をぐっと堪える。キスの代わりに、「帰りましょう、我が家へ」と囁く。すると彼はとびきりの笑顔で「はい」と答えてくれた。
トランクにスーツケースを放り込んでいる間に、助手席に乗り込んだ恋人から「熱気がムワッときましたよ!どれだけ暖めていたんですか!?」と、苦情とも疑問ともとれる言葉が叫ばれた。貴方のために暖めたというのに、酷い言われようだと、思わず苦笑が漏れる。しかし冷え冷えの外から運転席に乗り込むと、そこは恋人の苦情ももっともなほどの熱気と乾燥に包まれていた。
真冬なのに少しだけ窓を開け、深夜の住宅街を車で十分。車は自分たちの住まう賃貸マンションへと到着した。恋人にしてみれば、ひと月ぶりの我が家である。部屋に戻った恋人は一目散にお気に入りのソファへと倒れ込み、マイクッションに顔をうずめている。それは以前、彼の誕生日にプレゼントとして送ったものなのだが、やっと二人きりになれたのに、自分ではなくクッションを先に抱きしめるとはいかがなものだろう。ついついそんなことを思ってしまうが、あのクッションだって一ヶ月もご主人様に会えなかったのだ。自分と何が変わるところがあろう、同じ寂しさを乗り越えた言わば戦友である。同じ人を待ちわびていたもの同士、ここは大目に見てやることにする。しかし、あまり知られてはいないが、自分は嫉妬深い方なのである。いい加減こちらも気にしてもらいたいものだ。
うつ伏せに覆い被さるようクッションを抱きしめる彼を、さらに覆い被さるような形で抱きしめる。ギチリ、と重さに耐えかねたソファのスプリングが軋みを上げた。
「……クッションに嫉妬したんですか?」
「ええ、まぁ」
簡潔に己の意志を表示すると、彼は面白くてたまらないといった声音で聞いてくる。「自分でプレゼントしたクッションなのにですか?」その問いにも簡潔に答える。答えはイエスだ。
「度量が無いですね」
言にからかいが含まれている。
「そうですよ。貴方が思っている以上に、私は度量もないし、嫉妬深い」
そう言いながら豊かな黒髪を暴き、白い項に口付ける。ひと月前、別れの前夜に吸い痕を付けたはずがすっかりなくなってしまっている。
「ところで、度量がなくて嫉妬深い男から、ひとつお願いを聞いてもらえませんか?」
鮮やかに華咲かせた朱を見ながら囁きかける。何です?と目で問いかける恋人の上から退くと、サイドテーブルに用意していた一枚の紙を持ってくる。持ってきたものは自分たちに最も縁遠く、しかし最も憧れるもの。
「…………婚姻届、ですか」
「はい」
紛れもない、正真正銘の婚姻届。先日、役所から貰ってきたものだ。それを彼の目の前に差し出した。勿論、夫の欄はしっかり記入済みである。しかしそれを見て、恋人は難しい表情を浮かべている。
「これを、私に書けと?」
どうして?という言葉が言外に含まれている。そう、彼がこの紙に名前を書いたところで役所が受け取ってくれるわけはないし、提出するつもりも毛頭無い。隠すことでもないし、彼の名前の入った婚姻届が欲しい理由を素直に明かした。
「お守りにしたいんです」
「お守り…」
「はい。だって仕事柄、今回のように貴方は私の元を離れることが多いじゃないですか」
電話もメールもあるこのご時世。十数年前よりも連絡手段は格段に進歩し、仮に相手が異国の地にあっても顔を見ながら会話をする技術も生まれた。しかしそれでも自分は我慢ができない。彼のことが恋しくて恋しくて、年甲斐もなく切なくなる。
「女々しいのは分かっていますが、本心なんです」
声や映像の電波信号だけでは満足できない。もっと直接的に愛を刻まれたものが常に身近に欲しかったのだ。そう告げると、「その気持ち、わからなくもありませんよ」と彼はペンを持ち、妻の欄に自らの名前を書き込んでくれた。
「ありがとう、孔明」
手渡された紙を見ると、嬉しさで、つい頬が緩んでしまう。大切に大切にします、と小さく折りたたんで守り袋に入れる。
「……それ、まだ持っていたんですか」
「ええ。だってこれは、貴方が初めて私にくれたものじゃないですか」
それはまだ恋人になる前のこと。彼はまだ意識なんてしていなかったかもしれないけれど、その時から私の心の中は彼のことでいっぱいだった。
「ずるいですね。子龍ばっかり、いつもそばに置いておけるもので」
再びクッションを前に持ち、むくれる恋人。しかしふいにそれを放り出すと、いたずら好きそうな瞳が此方を見てきた。
お願いします、
「私にも、お守りをください。」この身に。貴方の愛を刻んでください。
可愛らしくて、女々しいおねだり。その願いを叶えてやろうと、細い身体を柔らかなソファへ押し倒した。
《終》
一人あみだ現パロ企画(2012年12月19日日記参照)の趙孔です。趙孔は「夫婦」というあみだ結果がでましたので、婚姻届で無理やりにでも夫婦感を出そうとしたのですが、後から見るとなんとも言えませんね(…)。ちなみにこのあみだ、あと馬孔と岱孔と瑜諸が未消化です(2013年2月16日現在)。徐孔、司馬諸、姜孔はオフで発行した『スプリング』になります。
こんな端っこの方まで読んでくださってありがとうございました!
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