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昭孔(現パロ)

普段と何も代わり映えしない土曜の朝。父と兄はそれぞれ朝も早くから出掛けてしまい、家には自分と孔明の二人だけが残っていた。
うららかな陽光が、大きめに切ってある窓から燦々と部屋を明るくしている。せっかくうるさい父と兄がいないのだから、そんな休みの日くらいだらだら過ごそう、とお気に入りのソファになだれ込んだ。早速一寝入り、と思ったその時、思いもよらない声が上がった。
「昭。今日これから、デートに行きませんか?」
ひょっこりと顔を覗き込んできた孔明が、にこりと笑んだ。
《》
「はい?」
孔明からあがった驚きのセリフ。一体どういうことか、不思議な展開に頭の回転が追いつかず、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。とりあえず起き上がって事情を聞こうとすると孔明は、ふふと実に楽しそうに微笑み、自慢げに何かを取り出した。それは三枚の紙切れのようだった。
「実は、ちょっと懸賞に応募したら映画のペアチケットが当たってしまったんです」
言われて孔明の差し出すものを見てみれば、なるほど当選通知と書かれた紙と最近封切られたばかりの映画のチケットが2枚あった。しかしせっかくのペアチケットなのに何故父と行かないのだろうと疑問に思っていると、おもむろに答えが判明した。
「仲達って、こういう映画観ないじゃないですか?だから、昭と行こうかな、と思ったんです」
よくよく題名を見てみればミュージカル映画である。それも恋愛物の。「何故話の途中で急に歌が始まるのか意味がわからん」と、一度だけミュージカル映画を観た時の、イライラと眉間に皺を寄せてぶつくさ言っていた父を思い起こすと、なるほどと思いながらもつい笑いそうになる。
「行きませんか?」
黄みの強い琥珀色の瞳が楽しそうに此方を覗き込んできた。そんな顔をされると、此方まで愉快な気分になってくる。
「いえいえ。この司馬子上、喜んでデートのお誘いお受けしますよ」
「本当ですか!」
ぱぁっと、まさに周りを明るくするような明るい笑み。そんな嬉しそうな表情をされると、こっちがついつい照れてしまう。
「ま、俺が一緒に行かないと、父上だけじゃなくて兄上にもフられそうでしたからね」
照れ隠しにそんなことを言ったのだが、孔明が「昭にも師にもフられたら誰か他の人を誘おうと思っていました」と言い出したものだから心底ドキッとした。独占欲というやつだろうか、孔明が司馬家の人間以外と映画に行ったりなんてことを想像すると、どうにもいい気持ちがしない。すると眉間にちょんっと、少しひんやりした孔明の指が当てられた。
「ふふ。冗談ですよ。これからデートに出ようって人が、眉間に皺寄せて、なんて顔してるんですか。」
そんな調子では楽しいデートはできませんよ、と翡翠の転がるような声が優しく諭してくる。自分ではわからなかったが、おそらく相当眉間に力が入った顔をしていたのだろう。孔明の指の離れたそこを自分でも撫でてみる。なんだかそこだけ、ほのかなぬくもりがあるような気がした。
「……あんまり眉間に皺ばっかり寄せてると、仲達みたいな顔になっちゃいますよ」
あまりの言葉に思わず吹き出す。父上みたいなって、どういう…と思っていると孔明のしてやったり、というような微笑みが待っていた。
「ほら、そうやって笑っている方が昭には似合っていますよ。」
じゃあ先に玄関で待っていますね、と孔明はすっと立ち上がるや、いそいそと玄関へと行ってしまった。パタンというドアの閉まる軽い音を聞いてから、思わず手で顔を覆う。
(……笑ってる方がって、それは俺よりも、……)
先ほどの柔らかな笑みを思い出す。薫るような、暖かさと愛おしさを含んだ微笑み。思い出すほど、手に触れる頬がどんどん熱を帯びてきた。


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