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~小休止~第1.5話 周郎 お告げを聞き逆チョコを決心し 孔明 チョコにて山を作る

桃の蕾はまだ硬い、寒風吹きすさぶ二月初旬。広い拝領屋敷の奥の自室、机に向かい頭を抱えている大丈夫がいた。その男、一体誰かと言えば曹丕の国の古参の将、泣く子も黙る(?)美周郎。はぁ、と形の良い唇からため息がひとつ零れた。彼を悩ます原因は、彼を幾重にも包囲する書簡書簡書簡の山…ではなくて、
「今年こそは貰いたいが……」
 思わずぽろりと漏れた言葉。彼を悩ます原因は、賢明な読者諸氏にはもうお分かりだろう、漢の二月の一大イベント、バレンタインである(後漢や三国の時代になんでバレンタイン…というツッコミは入れてはいけない)。愛しい愛しい孔明から、去年の冬には貰えなかった甘い甘い贈り物。今年こそ貰いたいものだが、かといって去年と今と、必死にアピールはしているもののふたりの関係は同じ国の同僚ただそれだけ、上にも下にも変わっていない。つまり貰える率は去年とさほど変わっていない。
「どうしたものか……」
 その武の華麗は江南中に鳴り響き、その言葉は三軍を手足の如く動かす周郎が、武よりもさらに天下に聞こえ高い智を必死に動員してチョコレートゲットを考えている……なんともいえない状況である。と、考え込んでそのままなんと周瑜は机に突っ伏す形で居眠りをこいてしまった。そんなことでチョコが貰えるというのか美周郎。
 しかしこれが後の周瑜の行動を決めることになると、誰が予測できただろうか。

 浅い眠りの時、人は夢をみる。それは記憶の整理をしているだとか人によってそれぞれ色々な理由をつけたがるが、周瑜のそれはいわば啓示とでも言ったらいいのだろうか。
 夢のなかにはあるひとりのざんばら頭で、もみあげから顎につながる鬚をのばした、身体つきはがっしりしているが、年の頃は四十にもなるのであろう中年の、何処か俗世を超越したかのような感じも受ける、地に届かんばかりのド派手な桃色のマントを身につけた男が出てきた。
 名も知らぬその男は言い含めるように、何事か周瑜に語りだした。儂もはじめはお主のようにいつ貰えるかいつ貰えるかと期待ばかりしておった、
「しかしそれだけではいかんのだと儂は気付いた」
 男はより熱のこもった声で、
「此方から攻めてこそ、むこうも応えやすいというもの」
 かくいう儂も去年この手法で成功を収めることができた。
「今の言葉、疑うことなく、兎に角実行に移してみよ」
 机からずり落ちるようにして周瑜は眠りから覚めた。美周郎と呼ばれている男として机からずり落ちるようなヒドイ寝方はどうかと思うが、そんなことはどうでもいいらしく、寝ている間に垂れたよだれを袖で勢いよく拭って一言。
「………これだ」
 確かに此方から渡してはいけないという道理は無い。此方から渡しても良いわけだ、しかも律義な孔明のことだから渡せば必ずお返しがくるだろう。
 善は急げ、鉄は熱いうちに打て、好機逸すべからず。周瑜は先程の神のお告げともとれる言葉を胸に秘め早速市街へ飛び出した。
 はたして周瑜は無事にチョコレートを得ることができるのか。


「なんとか、買えたな…」
 勢いよく市街へ繰り出したはいいが、探せども探せども目的のチョコレートがとんと見つからない。
 街の端から端まで、顔は汗泥にまみれ、絹の服は擦りきれ、沓には穴があき、一里の道も千里に感じる、文字通りズタボロになるまで駆けずりまわり、ようやく街の片隅で、帳場の傾いた一軒の居酒屋を見かけ、たまたまそこにあったチョコレートを譲ってもらえた。
「…それにしても奇妙だな。去年の今頃は街には腐るほど溢れかえっていたとい
うのに」
 今年はどうしてこんなにも少ないのだろうと城へ戻る道すがら周瑜はひとつ疑問を感じていた(ちなみに城門のところであまりにも衣服がボロクソなため番兵に咎められかけた)。

 まぁ色々あったがなにはともあれ孔明にこのチョコを渡しにいくかと自室で最上級の絹で作った緋の勝負服を身に付け、いざ行かん孔明のもとへ!と意気込んで扉を開けようとした時控え目に扉がコンコンと叩かれた。
 思いっきり出鼻を挫かれた形になってしまいイライラしながら扉を開けると、なんとそこにはカボチャを被った3衣装の可愛い可愛い孔明が立っているではないか!
 普段孔明のほうから周瑜の室に訪ねてくることなんてさっぱりないものだから、すっかりテンパった周瑜は混乱したり鼻息を荒くしたり頬を染めたりなんだりかんだりしながらもとりあえず孔明を卓まで誘い椅子に座らせると自分はその向かい側に腰掛け、急にどうした?と問いかけた。
 すると孔明、黒曜の瞳の縁取りの辺りに朱を刷いて曰く、周瑜殿に頼みがあるのですが。
 その言葉を聞くだけで、孔明の頼みとあるならばたとえ火の中水の中、火鼠の皮衣を持ってこいだとか燕の子安貝を持ってこいとか言われてもほいほいと承諾してしまいそうな勢いで「君と私の間じゃないか。頼みとは何だね?」と訪ね様、白魚のような手を掴もうとしたがうまいこと逃げられ両手は虚しく空を掴んだ。
「これを貰ってくれませんか?」
 すると孔明、その広い左の袖口に右手を入れ何やらごそごそ探しはじめた。
『貰ってもってくれませんか?』
 先程の言葉を反芻する。そしてこの何やら取りだそうとする仕草はまさしく!!
(貰ってくれませんかだなんて、なんといじらしい‥!君の贈るものを私が断るとでも思っていたのか‥?)
 孔明の右手が袖から出てきた。その手に握られているのはまさしく!何年越しか待ちに待ったチョコレート!!

 (周瑜の妄想☆劇場)
『周瑜殿‥実はずっと貴方のことを…。私の気持ち、受け取ってくれませんか?』
『私が君の気持ちを無下に追いやる男だとでも思っていたのか?』
『周瑜殿……。』
『今宵は君を離さない。』
~イエスvフォーリンラブ~

「孔明…っ」
 一頻り妄想で孔明とうっふんあっはんイイコトヤってきた周瑜はその妄想をいざ現実にすべく、卓にチョコレートを置くその白雪のような手を握ろうとした、瞬間、またしてもその手に触れることはできず、なぜなら孔明がまた手を左の袖の中に引っ込めたためで、チョコレートの箱を上から潰しただけで終わった。
 やはり現実は妄想通りにいかないものか、予想外の行動を取られ呆気にとられている周瑜を余所に孔明の行動は更に周瑜の目を丸くさせた。


 先程袖からひとつチョコレートを出したかと思ったら、またひとつ、左袖からチョコレートが出てきて、さらにさらにどんどん出てくる、その袖は四次元空間にでも繋がってるのかとツッコミを入れる暇もなくあれよあれよという間に卓の上には孔明の姿を隠すほどうず高いチョコレート箱の泰山が出来上がった。さながらバリケードである。
「孔明…これは一体‥?」
 問うてみると山際からひょっこり顔をだして孔明の語るよう、
「今年は逆チョコがブームだからと言って、皆さんが私にチョコレートをくださるんです」
 孔明の言葉を聞き、ほほぅだからこんなに孔明にチョコがー…と思うと同時に夢に出てきた悪趣味な桃色マントの男が頭をよぎった。何が儂は気付いただ、完全に今年のブームではないか…。
 孔明の話は続く、
「それで、趙雲殿はくださったのが一箱だけだったですが…」
 問題は他のひとたちで、まず姜維が5、6箱持ってきたのが口火で、多くの方がたくさんくださって、そのうち馬超殿が車輛で五輛分持ってきたと思ったら、今度は我が君が負けじと倍の十輛分持ってきて、挙げ句の果てには『あなたの魚より愛を込めて』と書いた怪文書が同封された一輛分のチョコが送られてくる始末で…、最後のは変態か嫌がらせか、新手のテロかと思いました。と思い出すとぞっとするのか身体を抱き抱えるように身を固くした。
「それで、とてもじゃないですけど一人では食べきれないのでおすそわけに…」
 あ、怪文書入りのチョコはここにはありませんから安心してください。アレは我が君に不審物として通報しておきましたから。と語る孔明にへぇ、そうか…と気のない生返事しか返せない。
 それもそうだ、こんな状況でチョコレートなんか渡せるわけがない。もし渡せるような人物がいたとすればそれは鉄の胆を持った勇者か或いは神がかり的に鈍感な人物かどちらかだろう。少なくとも周瑜はそのどちらでもない。
 あぁ、逆チョコですら縁がないなんて…と失意のうちに浸ろうとしたとき、ちらりと周瑜は孔明の顔を見とめた。すると白珠のかんばせに柳眉を寄せて眉間に不似合いな渓谷を作り、油煙墨を磨ったような黒が不安に揺れながら此方を伺っていた。
 あぁ…そんな顔をさせたいわけじゃないんだ。そうだ、私は他の奴らのように君の都合を考えず、困らせるようなことはしない。
周瑜に残された選択肢はただひとつ。
「君からのおすそわけ、ありがたくいただこう」
極上の美周郎スマイルで応えると目の前の顔には春風とともに桃の蕾がほころんだかのような笑みが浮かんだ。
「そう言ってもらえてよかったです」
ふわりとした笑顔がとても似合う。
「一緒に食べてってくれないか?」
そのやわらかな笑みのまま、
「遠慮しておきます」
周瑜は思わずずっこけた。
「まだあと凌統殿や夏侯淵殿のところにも回る予定がありますので」
失礼いたします。と、さっさともと来た道を引き返し、扉を開けると意気揚々と去ってしまった。来るは火急で帰るもまた倉卒。残された周瑜はただただ思う。
(よく考えたらこれだってれっきとした孔明からのバレンタインチョコではないか…?)
至ってポジティブシンキング。
逆チョコブームのお陰で逆にチョコを貰えるとは、これぞ怪我の功名で周郎、有頂天外、喜色満面、歓天喜地。ホワイトデーのお返しは如何にするかと江南一の頭を捻って千思万考。暫くの間周瑜の口元に不気味な笑みが絶えなかったとかどうだとか。この周瑜の笑みのせいでこのネタが3月のホワイトデーに続くのかどうかということになってしまった次第ではあるが、はたして続くのかどうか、それはまた次回の拍手で。


《終》

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