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番外編無双孔明のホワイトデー

「まったく天華殿は‥‥!」
つい口をついて言葉が出てしまい、はっと慌てて手で口を覆った。

座談会からとんぼ返りした孔明は自宅の私室にいた。外は春がすぐそこまで来ているようで、空気がほのかに暖かい。本来なら昼寝でもしたいような良い天気なのに。孔明は先ほどの手紙の内容を思い起こした。

(だいたい‥‥『貴方が欲しい』って何ですか‥)

そんなストレートすぎる‥いや、ストレートとかそんなのは関係なく、そんなこと言うのなんて、年頃の娘じゃあるまいし。思い出すだに恥ずかしいと孔明はつい俯いてしまう。
(私はホモじゃないのに)
「‥‥‥はぁ、」
思わずため息が漏れる。今日一日、どうしたものだろう。


「丞ーー相ーー!」


はた、と思考が止まる。遠くから叫んでいるのだろう、色々な雑音が混じりながらも愛弟子が自分を呼ぶ声が聞こえた。使用人が門を開くよりも早く自分で迎えに出た。公私共に親しくしているこの弟子なら、きっと何らかの助言をくれるだろう。そう思って自らの手で門を開いた時、嬉しそうな弟子の顔を見た瞬間、そういえば姜維にもチョコをあげたのだったと思い出した。


「丞相!」


間近で声を聞くと、自分でも血の気が引いていくのがわかった。
弾けるような明るい笑顔を見せる弟子に、不審に思われないよう努めて平静を装いながら、どうしました?と聞いた。
「これから簡単な視察に出ようと思うのですが、丞相が気になされてた場所だったと思ってお誘いに参りました」
確かに、以前そんなことを言った。まったくよく気の付く弟子に育ったものだと惚れ惚れするものの、思考の片方はこれは所謂デートではないかと警鐘を鳴らす。
「ありがとう、姜維。ですが、今は、少し、その‥」
「何かご用でも?」
「用、というほどのものでもないのですが‥」
どう言って断ったものだろうと。いつもの鋭い弁滑はどこへやら、しどろもどろになって困り果てていたその時。
「貴様、姜維!孔明の弟子というポジションを利用して、よくも私の孔明にそうも馴れ馴れしく近付いてくれたな!!!」
師弟の前に突如、周瑜が現れた。あまりの出来事に唖然。孔明の出来の良い頭ですら一時的にフリーズしてしまった。しかし周瑜はずずいと姜維の前に割り込むと固まっている孔明の手を取りにこやかに微笑んだ。
「さァ孔明、二人で呉に行こう。想い出の赤壁の近くに愛の巣が‥‥うぉっ!」
口説き文句の終わる前に煌めき一閃。周瑜の目の前を鋭利な槍が掠めていった。はらはらと髪が二束、三束宙を舞った。
「気安く丞相に触るな!次に丞相のお身体に触れるようなことをしたら、今度こそお前の腹に風穴を空けてやるぞ!」
「ふん、青二才め。私と孔明の間を裂こうとは百年早いわ」
「何ィ!?」
龍虎相対するように二人、火花が散らんばかりに互いを睨みつけていたその刹那。
ヒュン、と風を斬る音と共に細長い赤い物体が周瑜と姜維の目の前を横切っていった。二人は慌てて身体を反らせたが、謎の飛来物の熱気で冷や汗が出た。
「失礼します。諸葛亮先生を頂戴しに参りました」
声のする方を振り向けば、弓を構えた姿で腹黒い笑みを浮かべた男がいた。孫呉の放火魔陸遜、その人である。すかさず孔明に近づくと周瑜から解放されたたおやかな手をとって膝まづいた。
「諸葛亮先生、先日は―――」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ようやくフリーズが解けた孔明。周瑜と陸遜の顔を見て、「お話の前に、貴方がたはどうやってここに来たのですか」と問うた。
「どう‥って、普通に荊州経由だけど」
「荊州って、」
関羽殿はとその時、おずおずとこの騒動の合間を縫って諸葛家の使用人が主に一通の書簡を手渡してきた。

筆者注。姜維とか周瑜とか陸遜とか関羽とか一気に出てきちゃってますが、西暦何年くらいとか細かいことを気にしちゃいけません。

閑話休題。

そして関羽の書簡曰く、


『先ほど周瑜と陸遜が、軍師殿に会いに行くとか何とかで成都に入るのに荊州にやって来たが、身に寸鉄も帯びていないようだったので通した次第。かしこ。追伸。最近兄者に会っていないので(以下略)』


(かしこじゃありませんよ!荊州全部任せてるんですから、もっとしっかりしてください!)

あまりにも残念な書面に孔明は頭をかかえた。というか馬良殿は何故止めなかったのだろう、そもそもわざわざ馬良殿を荊州に残したのは、
「諸葛亮先生!」
突然の声に思考を中断される。そういえば陸遜に手を握られていたと気づく。目の前には自分に想いを寄せる男が一人、周りにいるのも合わせてそんな男が二人、三人。
何だろうこの状況は、修羅場か、袋のねずみか。

「今日は先日のバレンタインのお返しにやって参りました。」
ぜひ受け取ってくださいと懐をまさぐる陸遜を見て周瑜が割り込む。「待て!私より先に孔明にお返しを渡すなんて許さん!孔明!私のお返しを先に受け取って‥」すると今度は姜維が妨害「丞相の一番弟子であるこの私が一番に渡すのです!よそ者は引っ込んでてください!」さらにまた陸遜が前に出て「何を言うんです?!一番弟子だろうが何だろうが私の方が早くから諸葛亮先生を存じ上げています!」「それを言うなら私が一番だ!赤壁で会ったぞ!!」ぎゃいのぎゃいのと、ひとの家の前でよくもやってくれるものだ。三人は抗争で忙しいようで、孔明は今は比較的フリーである。チャンス到来、このままこっそり逃げ出そうかと思って、そろそろと後退を開始した、そこへ。
「孔明殿‥何ですかこの騒ぎは?」
むこうには火矢もありましたしと言い、現れたのは爽やかが服を着て歩いているような男趙雲。颯爽と孔明の傍に立つと、前方のよくわからない抗争に気付いたらしい。
「周瑜と陸遜もいる。‥‥呉のスパイですか?」
「あ!いえ、そうではないようですが」
何故か不必要なまでに二人を擁護してしまっていると、それを見た趙雲は目を細めた。
「まァそうでしょうね。冗談ですよ」
そう言って趙雲は爽やかな笑み返してきた。その微笑みを見ていたら、孔明は何だか今日座談会から帰ってきてから久しぶりにほっと一息つけた気がした。
「――――そういえば趙雲殿は何故此方へ?」
喧嘩中の三人は放っておいて早くもこちらは二人きりの世界のよう。その問いかけに趙雲は、簡潔に答えた。
「バレンタインのお返しをお持ちしました」
「バレンタインの‥‥、」
ハッと孔明の頭にあの言葉がよぎる。『愛情た~っぷり‥貴方の気持ちを教えて‥』走馬灯のように駆け巡る言葉『貴方の気持ち‥気持ち‥貴方の気持ちを教えて』
「ちょ、趙雲殿っ!」
今しもお返しを出そうとしていた趙雲を寸でのところで制した。万が一ということもある。趙雲に例のチョコが当たっていないとは限らない。心の準備が必要だ。大きく深呼吸をしたその時。
「あーー!!趙雲殿が抜け駆けしてます!!」
何?!何ですって!?と麒麟児の一声に三人の戦場がこちらに移ってきた。
趙雲殿抜け駆けとはずるいですよ!主騎だからって諸葛亮先生にベタベタしないでください!何かにつけて孔明にくっついて、孔明は私のものだ!
三人三様がやがやがやがや。うるさい状況に孔明は密かに趙雲が一喝してくれないかとちらりとそちらを盗み見た。
「――――私が抜け駆けでもすると、何か悪いことでも?」
「は?」
言うや趙雲、かばっと孔明を抱き寄せた。急に抱き込まれたものだから孔明はパニックで、がやがやしてた三人は大絶叫である。そして先ほどまでの優しい様子から急にキャラが変わったような趙雲に、孔明は腕の中で必死の抵抗を試みる。
「ちょ、趙雲殿!待っ‥」
「孔明殿、」
チョコ、嬉しかったです。と優しい声音が孔明の鼓膜を震わせる。と同時にぞわぞわと嫌な悪寒が背を伝う。
「私の気持ちを、受け取ってください」
「趙雲殿‥っ」
「させるかァ!!!」
血相変えて死ぬ気で特攻阻止したのは周瑜。趙雲の次は今度は周瑜かと孔明はもう疲れてきていた。しかし一方の周瑜はやはり呉から孔明のためだけに入蜀したからか、相当な執念である。趙雲の腕の中から孔明を奪うやお姫様だっこを敢行。愛してる孔明、だから一緒に呉に行こう!と力づくでの誘拐を謀った。
のも束の間。
ぎらりと煌めく槍刃が周瑜の顔の脇を通過した。趙雲は後ろにいる、しかし槍は周瑜の正面からやってきた。果たしてその正体は、

「馬超殿!」

現れたのは愛馬に跨がった馬超。馬もデカイが、馬超もタッパがあるために対峙していると恐ろしいまでの威圧感がある。
ぼやぼやしていたら後ろから趙雲と陸遜と姜維もやって来た。まさに前門の虎、後門の狼。万事休すか、と思っていたらさっと孔明を馬超に奪われてしまった。
「孔明、怪我は無いか?」
馬超の手が孔明の肌に触れる。孔明はざわざわと鳥肌が立つのを感じながら、大事ないですと馬超を振り払おうとした。が、如何せん馬超の膂力に孔明の脆弱な力が敵うわけがない。こうも簡単に手込めにされては、孔明の脳裏にちらっと、身体鍛えようかなァとのん気なことを考えてしまう。この状況に周瑜をはじめやっと追いついてきた面々は孔明を奪った馬超に大ブーイングである。しかし、
「バレンタインの礼がある」
そう言う馬超は外野の声は全く気にも止めず、懐からお返しを取り出した。出てきたのは意外や何とも可愛らしい小袋だった。
「岱が作った焼き菓子だ。」
岱の奴がお返しはこういう物がイイだろうとか言うんだ。と馬超は言う。従弟が作った物を渡すのはどうかとか、そういったことは目をつぶって、まさかこんなまともな物がやってくるとは夢にも思わなかった孔明は不覚にも胸にこみ上げてくる熱いものを感じた。
しかし孔明が感謝を述べようと馬超の方に顔を向けたその時、
「――――俺は菓子よりもコレの方がイイと言ったんだがな」
と言うが早いか、孔明の唇に温かい感触が覆い被さった。
「~~~~~~っ!!??」
「「「「あーーーーーーーーー!!!!!!」」」」
声にもならない叫びと、四人分類大音量の絶叫がその場を駆け巡った。孔明殿!孔明!丞相!諸葛亮先生!と皆一斉に声をあげる。
「‥‥何なんだお前らは」
触れるだけの軽いキスしかしていないのにうるさすぎる外野に馬超は眉をひそめた。
「何なんだとはこっちのセリフですよ馬超殿!丞相の可憐な唇になななんてことを‥!」
「だからバレンタインのお返しだと言っただろうが」
「いや馬超、私たちが言いたいのはそういうことではなくて‥」
「諸葛亮先生!今すぐ私が消毒を‥!」
「気安く私の孔明に触るな!‥‥大丈夫かい孔明?さァ私が毒を吸い出してやr」
ぐぇ。と、周瑜は言葉を最後まで発する前に潰れたような声をあげた。それもそのはず、実際に周瑜はある人物に踏みつぶされていた。孔明は今やその人の腕の中にいた。その人物の顔を見止めるや、孔明の双眸からは一片の涙が零れ落ちた。
「――――殿、」
そうその人物とは三度草廬を叩き、孔明を迎えに来てくれた唯一無二の代え難き君主、劉備玄徳であった。
「孔明、バレンタインのお返しに来たぞ」
ガン、と言葉の暴力が孔明を襲った。ようやくこの修羅場から逃げられる、そう思っていたのに。チョコをあげたかどうかすらわからなくなってきている‥‥孔明は頭をかかえた。しかし、劉備が密やかな声でとんでもない言葉を送り込んできた。孔明一人にだけ聞こえるように囁かれたその言葉。
「――私もお前が欲しい、孔明」孔明はハッとした。蘇る天華の手紙、『貴方が欲しい』
「ま、まさか殿‥!?」
「――趙雲、馬超、姜維。往来の真ん中で騒ぐのは感心しないぞ。」
周瑜殿と陸遜殿には、早々に江東にお帰りいただくようにお手伝いしなさい。
急に主君に優しく諭されて、趙雲と姜維は先ほどまでの大人気ない自分たちが恥ずかしくなってきた。しかし孫呉組はそうとは思っていないようで何とか孔明に近付こうと頑張ってくる。が、あっという間に槍族に制圧されてしまった。
一方の孔明はこれはまずいことになったと、どうにかこの危機を脱却しようと試みた。
「と、殿、あの‥少々お待ちを、」
「孔明、」
やっと一つになれるのだな。と囁く劉備の熱い想いの前に、拒否の言葉など何の抵抗にもならなかった。助けを頼もうと振り返っても趙雲達は周瑜達を送り返すのにさっさと出てしまっていた。


劉備と二人きり。そして今や劉備の腕の中。ふいに再び孔明の唇にかさついた温かいものが触れてきた。しかし今度は馬超の時とは違い、ぬるっとしたものが口腔に押し入ってきた。


「――――さァ城に行こうか」
「と、殿!ま、待って‥待って下さい!殿っ!!!!」



何で今年はバレンタインにチョコなんて配ってしまったんだろう、といくら後悔してももう遅すぎることであった。



余談。この日この後、孔明は殿の元にお泊まりしたのだが、孔明の自宅には魏からクール便が送られてきていた。それは司馬懿からのお返しであるのだが、孔明がその包みを開けるのは当分先になるのだった。



《終》



ホワイトデーからどんだけ時間経ってるんだよって感じですがやっとホワイトデーネタの本編です。しかも時間がかかったわりにいつにも増して文章とネタが酷いですね(震)

いつの間にかバチョのキャラがキス魔みたくなってるけど気にしない←
ちゅーができるおかげでいつもバチョが割合イイポジションになってるけど今回残念ポジションは司馬懿さんでしたね。ええ、クール便って単語が使いたかっただけです(待て)

てか何やら、孔明を挟んでドタバタ→バチョがちゅー。がパターン化しつつある‥。むむむ。

何やら色々課題が多いような小話になってしまいましたが、こんな所まで読んでくださって本当感謝です。ありがとうございました!

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