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疫病神と‐雨の中の出会い‐

疫病神ネタ現パロ第一話です。CP的には瑜→諸になっております。



街には昼過ぎから雨が降りだした。
小粒の雨は強くない雨足で周瑜の退社時間になってもまだ降り続いていた。いつもならこの時間はビルの谷間に夕陽が落ちていくのが見えるのだが、今日はしとしとと穏やかな雨粒を吐き出す白っぽい雲が空を隠していて見ることはできなかった。

《疫病神と‐雨の中の出会い‐》

周瑜は最近業績を上げてきた孫呉商事に勤める若き秀才である。社長孫堅と、幼なじみでありまた良き友でもある若社長孫策を補佐する極めて重要な役職に就いているものの、歳の割に物怖じすること無く威風堂々とした様で忠言諌言するその様子は老若を問わず多くの者からの尊敬を集めていた。仕事においてはまさに順風満帆、河の流れにも後押しされた船のように勢いに乗っていた。
しかし一方でプライベートは仕事のようにそうも上手くいったものではなくて、3LDKの立派なマンションの一室をもう長いこと一人で占領し続ける寂しい有り様を呈していた。

もう五年も使っている物持ちの良い傘を手に、周瑜はアスファルトに溜まった水を避けながら帰路へ繋がる雑踏を歩き出した。今日の夕飯は買って帰るかそれとも自分で何か作るか、どちらにしろ寂しいことこの上ないことを考えながら周瑜は横断歩道を渡りはじめた。
すると周瑜は、己が瞳に映ったある人に釘付けになった。


周瑜の向かう横断歩道の信号の下に渡るわけでも無くただひたすら立ち続ける、ひとりの人。
ひたひたと濡れそぼる雨を傘で防ぐでも無く、幅広の襟の長袖とデニムを雨に濡らしている異色の人。
だがその人の何と美しいことか。
まるで月が人の形をとって目の前に現れたようであった。
すらりとした肉付きの薄い体躯に背まで伸びる乾いていればふんわりと柔らかいのであろう漆黒の髪、雨が当たればそのまま雨粒が乗ってしまいそうな程に長い睫毛に、それに縁取られた黒水晶のような瞳。真珠のように白くすべらかな肌に一際映える桃の花のような唇の赤。それを囲むように細い三筋の髭が生えているのが唯一、この人が男であるのを表しているようだった。
心が奪われるとはこのことをいうのかと、周瑜は初めて思った。
気が付くと信号がちかちかと点滅を繰り返していた。思わず横断歩道の真ん中で足を止めてしまっていた周瑜は慌ててその人の立つ側の歩道へと走った。
近くでその人を見ればその肌の雪のようにきめ細かなのがわかった。しかしその肌を冷たい水が幾筋も流れ落ち、温かな身体を冷やしていた。
「傘を忘れてしまったのか?」
しとしととその美しい人を浸食する雨と、ずっと何処か遠くを見続ける視線を遮るように周瑜は自分の傘でその人を覆った。その人はここでやっと周瑜に気付いたようで、真っ黒な瞳が周瑜を見上げてきた。吸い込まれそうな瞳の黒に思わずため息が出そうになった。
「風邪を引いてしまうぞ」
笑顔で話しかければ緊張が解けたのかこの綺麗な人は強ばらせていた身体から力を抜いた。
さりげなく袖から覗く白い手に触ると雨に濡れてか霜のようにひんやりとしていた。
「ここから私の家が近い。うちに来ないか?」
言ってから気付いた。これではまるでナンパである。いや、そんな生易しいものでは無いだろう。何故ならこの人は男なのだ。ナンパどころか変質者に思われたかもしれない。
しかしそんな周瑜の心配はよそに、意外なほどすんなりとこの綺麗な人は首を小さく縦に振ることで了承を示した。それを見た周瑜の心は小躍りしたくなるほど浮き足だった。「じゃあ行こうか」とこの人がもう雨に濡れないようにきちんと傘の下に収まるようにした。そうしたら傘を持っていない方の手に持っている鞄とそちら側の肩が雨に当たるようになったが、この人が濡れる方が一大事だと、そのまま雨に打たれるまま歩き出した。


玄関に入ると周瑜はすぐに大きなバスタオルを持ってきて、それでこの綺麗な人をすっぽりと覆うようにして水分を拭き取ると「このままでは寒いだろう、シャワーを浴びるといい」と、この人を浴室へ案内した。
あの人がシャワーを浴びている間に周瑜は部屋着に着替え、あの人が浴室から出た後に飲むよう二人分のコーヒーを沸かし始めた。
暫くしてコーヒーの芳ばしい薫りが漂い始めた頃、おずおずとした感じで扉が開かれた。シャワーを浴び、すっかり身体を温めた綺麗な人が少し大きめのシャツとズボンを着て現れた。
すぐに周瑜がその人に近寄ると思った通り、ドライヤーで乾かした髪はふわふわとしていて時折甘い薫りが鼻をくすぐった。
「湿っているよりはいいだろう。ちょっと大きいだろうが我慢してくれ」
背丈はそう変わらないものの、筋肉の付き方の違いでこの人が自分の服を着るとひどくだぼだぼに見えた。
「コーヒーを沸かしてある。砂糖とミルクは?」
周瑜が優しく聞くとこの綺麗な人は初めて口を開いた。
「…両方ください」
高くもなく低くもない、穏やかな湖面を思わせるような声だった。
希望通り、砂糖とミルクを持ってきてあげるとこの人は角砂糖ひとつとミルクをたっぷりカップの中に入れるとおいしそうにそれを飲みだした。周瑜はその人の座るソファの隣に腰掛け、ブラックのコーヒーを飲みながら目を細めてその人を見ていた。
一息ついたところで周瑜が口を開いた。
「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前は周瑜。字は公瑾」
気軽に公瑾と呼んでくれと微笑を含んで言うと隣に座る麗しい人が唇を開いた。
「――諸葛亮と申します。字は孔明です」
「孔だ明るし‥か。いい名だ」
そう言えば孔明の頬がほんのり赤らんだ気がした。孔明と呼んでいいかい?と聞くと「ご自由に」と短い返事が返ってきた。
「そういえば、何故あんなところに?」
傘もささずに雨のなか、ぼうと立ち尽くしていた。先ほど孔明の服を洗濯機に放り込んだ時、絞れば水が出るほどに服が濡れていたのに気付いた。一体どれほどの時間を彼処に立っていたのか。そしてそれは何故。周瑜の頭のなかはこの不思議な綺麗な人――孔明のことでいっぱいだった。
「……。」
孔明は少しの間、話すか話さないか迷っているようだった。魅惑的な黒の瞳が悩みに揺れた。余程深い事情でもあったのか。周瑜は先走りすぎた自分の無神経さに恥じ入った。しかし、孔明はぽつりぽつりと事のあらましを話してくれた。


「人と、喧嘩をしたんです。」
いえ喧嘩ではありません。私が一方的に出ていってしまったんです。
本人にしからわからないその心情を思い出したのか、孔明の伏し目がちの瞳が淡く揺れた。
「…どうして?」
声が途切れた瞬間、その声をもっと聞きたくて、本当なら本人が話せるようになるまで待つべき所を、誘惑に駆られるまま周瑜はつい突っ込んだことまで聞いてしまった。
しかし孔明は嫌な顔はせず、そのまま話を続けてくれた。
「その人は私よりも二つ歳上の幼なじみで、とてもしっかりした人だったんです。私はその人のことを小さな頃からとても慕っていました」
幸せそうに話す孔明の顔を見ていると知らず周瑜はその顔もわからない幼なじみに嫉妬してしまった。孔明にこんな表情をさせる程に想われている相手とは、なんて羨ましい奴なんだろうと。
と、孔明がその柳眉を寄せ、カップを持つ手に少しだけ力を入れた。「でも…――」、
「最近になってその人が急に、私のことがずっと前から好きだったと…」
私はその人のことをたった一人の幼なじみで、仲の良い友人だと思っていたのに、と消え入りそうな声が呟いた。
「あまりにも唐突で、どうしたらいいのかわからなくて、それで家を飛び出して…」
ふわりと周瑜の腕が孔明の身体を覆った。腕のなかにしてみると孔明の身体はすっぽりと小さく周瑜の腕に収まった。
「すまない。酷なことを聞いてしまった…。許してくれ」
話の最後の頃を話す孔明の顔はひどく辛そうで、こんな顔をさせたいわけではないんだと周瑜は心の内に深く後悔した。そして話の淵から孔明と同じ家で共に生活し、孔明に想いを寄せているその幼なじみに嫉妬した。しかしそんな周瑜とは裏腹に孔明はひどく穏やかな顔をしていた。
「いいえ。聞いてもらえたら、少し気持ちが楽になりました。」
握っていたカップをテーブルに置くと孔明は周瑜の背にそのしなやかな腕を回した。
「ありがとうございます」
その水面の波紋のような静かな声を聞いた瞬間、周瑜は確信した。
この人に本気で恋してしまった、と。
そしてひどく儚げなこの人の支えになってあげたいと、心の底から思った。
背中に回った孔明の腕は思いの外温かかったが、その温みはすぐに離れていってしまった。


「コーヒー、ごちそうさまでした」
先ほどまで萎れていた人は一輪の笑みを白皙のかんばせに乗せ立ち上がった。
「‥帰るのかい?」
その幼なじみが待つ家へ、とは続けられなかった。言ったら自分がひどく惨めになる気がしたからだ。しかしその前に既に先ほど発した自分の声はひどく暗く聞こえた気がする。
「はい」という柔らかな声に周瑜はやはりと心の内に嫌な蟠りを感じた。が、素早くそれを打ち消して「送って行こう」となるべく平静を装って答えるとサイドテーブルに置いてある愛車のキーを手にした。
孔明がふいに服のことを思い出したようで気にし出したから「後で取りにおいで」と言った。そうすればいずれまた会えるから、と細やかな希望は心の中で呟いた。
「では、家まで送ろうか」
「いえ、駅前の公園までで結構です」
「遠慮してくれるな、家まで送るから」
「遠慮では無くて、今日は公園に泊まろうかと思ってまして……」
その言葉に周瑜の時が止まった。今、孔明は何と言った?家に帰るのではないのか?とそんな思いが周瑜の心をぐるぐると駆け巡った。
そんな周瑜をさておき孔明は「まだ家に帰るつもりはありませんので」とさらに続けて先ほどとほぼ同じ言葉を告げた。
「今日は近くの公園ででも寝ようかと…」
「公園で寝るくらいならうちに泊まればいい!」
周瑜の突然の大声に孔明は思わず身体を少しびくつかせた。ついつい声を荒げてしまった周瑜も、しまったなとも思ったものの一方でほんの一握りの時間でこんなにまでこの人に惹かれて、みっともないほど焦がれている自分に気が付いた。
「こうやって知り合ったのも何かの縁だ。遠慮せず、気持ちが落ち着くまで私の家にいるのはどうだ?」
ちょっとがっつきすぎかと自分でも思わず自分の行動が恥ずかしくなってしまうが、この人のことを考えるとそんなことどうでもいいような気がしてしまう。
しかしそんな周瑜の恋心は他所に、孔明の顔は一向に冴えない。むしろ曇ってしまったようにも見える。
「せっかくですが、遠慮いたします」
長い睫毛を伏せ気味に、静かな声で孔明は告げた。「どうして?」と周瑜は形の良い眉を歪めて聞かずにはいられない。すると見つめられた孔明は少し困ったように眉を寄せて逡巡した後「驚かないでくださいね」と呟いた。


「私、ヒトではないんです」
静かな声がゆっくり告げたその言葉に周瑜は、何を馬鹿なと思った。しかし同時に、でもこの人ならひょっとしたらヒトではないのかもしれないなと心の底で仄かに感じた。そう、人間を超越した天使や神のような――――。
長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳が周瑜を見ていた。そしてつややかな丹唇が次の言葉をつむいだ。
「疫病神なんです」
一瞬、この人が何を言ったのか周瑜は理解できなかった。疫病神と、この麗人は言ったのだろうか。疫病神というとどうにも周瑜のイメージではもっと貧相ないかにも骨と筋しか無い、憎らしい面構えをした爺を思いおこすのだが…しかしこの綺麗な人は間違い無く、自分は疫病神だと言ったように聞こえた。
驚かないでくださいとは言われたもののそれ以前に思わず唖然としてしまった。だって突然に「私、疫病神なんです」と疫病神のイメージからはるかにかけ離れた人に言われて信じられるだろうか。
「……疑ってますね?」
先ほどまでの艶やか表情から一転してムッとした子どもっぽい顔で睨まれてしまった。何だか今になって初めてこの人は素を出したのではないかと思った。
「いいですよ、疑うのなら。それならそれでこの家にいます。私がいれば嫌でも不幸になりますから、私が疫病神だっていうこともわかりますよ」
ちょっと怒っているようにそう言うと開き直ったのか先ほどまで座っていたソファに再び腰かけた。しかし、「でも、嫌というなら私、出ていきますよ?」と、疫病神とは思えないほど優しく思いやりのある、そして可愛らしい表情で振り向くものだから周瑜もノーとは言い難い、胸を締め付けられる思いがする。むしろこのまま孔明がこの家にいてくれるという点に喜びを隠しようがない。
「いや、疫病神だというならじっくりとその証拠を見せてもらおうか」
と、周瑜はさりげなく孔明の豊かな黒髪に触れた。しっとりと潤いを含んだ柔らかな髪が長い指に絡め取られた。

こうしてひとりの人間とひとりの疫病神のちょっとした同棲生活が始まったのである。


《続》





憑神を観てから無性に書きたくなった疫病神パロです。
最初本当は一話で収めるつもりだったのですが「このペースで書いてったら一体何十ページになっちゃうんだろう(震)」ってことで分割してみました。
だってまだ出会いくらいしか済んでませんからね(震)これからはちょっと疫病神パワーによる愉快(?)な日常がお送りされる予定です(予定は未定です)
今回は都督くらいしか出てきませんでしたが、一応丈の中で大体の人のポジションは決まってるんですよ。出るかは別として←
ちなみに皆さんは孔明の幼なじみにピンときたでしょうか?ピンときたら110番…じゃなくて「あ、アイツか」ってニヨニヨしてください(o´∀`o)

ここまで読んでくださってありがとうございました!

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