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張良の悩み・雨の中の提案(メゾン・ド・漢中/現パロ)

設定にも書いてあることで張良スンが悩んでおります。ちょっと真面目なお話です。今後の展開に関わってきますが、短いです。




しとしとと雨が降り止むことの無い長雨の時期。しかしその憂鬱な天気も、月曜だけは晴れやかな気分になれる。韓信は傘を片手に、もう片方にごみ袋を持って水溜まりの道を歩いていた。行き着く先にいた人は此方に気付くと爽やかな笑みをかけてくれた。
「おはよう、韓信くん」
「おはようございます、張良先生」
 普段何かと壁越しに声は聞こえるものの、面と向かって張良と会えることはなかなか少ない。そんな中で必ず決まって会える月曜のごみ捨ての日は、週のはじめの韓信の心に潤いを与えてくれる。
 今週も頑張れそうだ。と、韓信が軽く悦に入っていると、ふと張良の顔に曇りが見えた。
「‥‥どうかしましたか?」
「えっ?!あ‥ごめん。私、変な顔してた?」
「いえ、変というか‥、何か悩んでいるような顔だったので」
 そう言うと張良は一瞬、伏し目がちに視線を落とし、少し俊巡した後、此方に黒に輝く瞳を向けてきた。
「実は、まだ次の職場が決まっていないんです‥」
あ。と韓信は気付いた。現在、張良は洛邑高校の教師であるが、洛邑は今年度いっぱいで統廃合が決まっている。経営難ゆえの統廃合、そのため相手方の要求をほぼ無条件に飲み、非常勤をはじめ、なかなかの数の教師が解雇されるのだと噂で聞いていた。しかしまさか張良のような優秀な人まで、と韓信は驚きと憤りを感じた。
「我が君は、職が見つからなくても自分が養ってやると言ってくださるのですが、それでは私の気が治まりません」
でもこのままでは本当に主夫になるしかなさそうです。と笑顔で張良は言うが、瞳には今にも雫になってしまいそうな潤みがあった。
「‥ごめんね。朝からこんな話しちゃって‥」
またね。と別れの挨拶を残し張良が去ろうとした瞬間、韓信ははたと思い出した。
「張良先生!」
 ぽつぽつと雨が傘を打つ中、髪を揺らして張良が振り向いた。息を飲むほどに美しいその光景。
「う、うちの学校で産休の先生が出ます。ですから、うちの学校に来ませんか?」
 驚いたような張良の顔。一方の自分の顔はきっとガチガチに固まっているだろう。バクバクと心臓の音が今までにないくらい大きく聞こえる。告白する気分ってこんななんだろうなと思わずにはいられない。
 すると、先ほどまで沈んでいた顔が、ふわりとした華のような笑みになった。
「ありがとう、韓信くん。」
でも採用担当は君じゃないだろう?と可愛らしい笑顔が聞いてくる。「ぅっ」と、言葉が詰まらずにはいられない。しかし張良は変わらず優しい表情で韓信の肩に触れた。その顔は、昔から片時も忘れたことのない、「張良先生」の顔だった。
「でも私、漢中受けてみるから。‥受かったら、一緒に働けるね。」
じゃあまたね。そう言うと今度こそ張良は行ってしまった。しかし心なしかその顔はすっきりとしていたような気がした。
 たとえ微々たることだとしても、張良の力になれたらいい。そう思って言ったことだが、本当に一緒に働けたらと思うと自然に何やら顔がにやけてしまう。
 張良も行ってしまったことだし、いつまでもこんな所にいても仕方ない。と、韓信も雨の中、水溜まりを軽いスキップ気味に避け、部屋へと戻って行った。

 数ヵ月後。張良は見事漢中高校の産休代理教師として採用された。張良も喜んだが何よりも、同僚として毎日張良と顔を合わせることができるようになった韓信は小躍りしたくなるほど嬉しかった。
 しかし、初めて帰宅時間が重なり、一緒に帰ろうと提案した時、有頂天だった韓信の気持ちが一気に落ち込んだ。
「ごめんなさい。我が君の所に行く予定なので‥」
 そう張良が言って向かった先は学校の目の前に立つ交番。中から出てきたのは言わずもがな、警官の制服を着た劉邦。
 入り口の辺りで少し話をした後、二人は仲良く交番の奥へ引っ込んでいった。
 何でこんな目と鼻の先で気付かなかったのだろう。と、その一部始終を職員室の窓から見ていた韓信は、熱くなる己が目頭を押さえずにはいられなかった。
 よく晴れわたった、爽やかな風の吹く日のことであった。


《終》


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