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花粉メリット/デメリット(メゾン・ド・漢中/現パロ)

花粉の飛来する季節の夫婦。張良先生の使う某花粉必須グッズに劉兄ィはちょっとイライラです。



たまの非番に家でのんびりしていた時。


「はっ‥くしゅん!」


隣で小さな声が上がった。足の爪を切っていた劉邦はちょっとそちらに顔を向けてみた。しかし顔を向けている僅かな間にも、もう一回。
「くしゅんっ」
少ししてから、くしゃみのためにぎゅっと閉じていた目蓋が開いた。大きな瞳は劉邦と視線が合うと恥ずかしそうに背中を向けて顔を逸らしてしまった。



そう、彼の愛しの妻は花粉症なのだ。




《花粉メリット/デメリット》




彼の妻は、繊細な見た目に比例するように非常にデリケートに出来ている。ふとした拍子にすぐ風邪をもらい、インフルエンザは予報接種をしないと必ずかかる、所謂病弱でもある。
花粉症に関しては、病院で貰ってきた薬も飲んでいるし、小振りながらも性能で推している空気清浄器も稼働させているが、それでも彼の妻は、洗濯物を干すだとか誰かが来たから玄関を開けるとか、そんなささいなことですぐにアレルゲンにやられてしまう。まったく繊細だ。代わってやれるなら代わってやりたい。が、人間の身体そうはいかない。それに劉邦自身は体質が雑というか何というか、アレルギーとかの類は一切発症したことがない。春先の一般市民が怖れる花粉なんてどこ吹く風である。



「――――それでは我が君、ちょっとお買い物に行ってきます」


話をすっかり聞き流してしまっていたら、いつの間にか可愛い妻は玄関のノブに手をかけていた。今しも買い物に出ていくところだ。
「待て!子房、待て!わしも行く」
慌てて爪を乗せていた古新聞を折り畳んで捨て、急いで部屋着から簡単な外着に着替えた。がたがたと慌ただしく動いていると、玄関で待つ妻が少し困ったような声をあげた。
「そんな、たまの休みなんですから、どうぞゆっくりしていてください」
「たまの休みだからこそお前と一緒にいたいんじゃないか。一緒に買い物なんて久しぶりだろう?」
玄関にたどり着いて妻を覗き込むと白い顔を耳まで真っ赤に上気させていた。純粋すぎて愛おしい妻の姿に、自然と頬が弛む。
「近所のスーパーだって、お前と一緒なら楽しいもんだ」
手でも繋ごうか?という感じで手を差し出したが、恥ずかしいのか握ってもらえない。まぁ今はイイがそのうち、と今日は手はポケットに突っ込まずにずっと外に出していようかと思った。
「あ!ごめんなさい、ちょっと忘れ物が‥」
今しも外に出ようとした瞬間、そう言うと可愛い妻は軽い足音を立てて奥に引っ込んでしまった。何とはなしに、ほんの少し妻を待つ。すぐにまたぱたぱたと玄関まで戻ってきた。が、その顔を見た瞬間、劉邦の機嫌は少なからず悪くなった。



妻の顔は下半分をすっぽり隠してしまうくらい大きなマスクで覆われていた。ふっくらとした可愛い唇も、つんと尖った鼻も、先ほど真っ赤に染めていた初々しい頬も全部隠れてしまっている。出ているのはうるうるした瞳と小さな耳くらいだ。


では行きましょうか、と妻はむくれている劉邦には気付かないようで、さっさとドアを開けて先に外に出てしまった。

そんな様子も、少し勘に触ったので、妻の許可も得ないで半ば掴むように薄い手を繋いでスーパーまで行くことにした。しかし、妻はそれをふりほどこうとはせず、目元をほんのり桃色に染めて静かに受け入れてくれたので、劉邦はすこぶる機嫌がよくなった。




「――――我が君、大丈夫ですか?重くありませんか?」
「なにこのくらい。重いうちには入らんよ」
スーパーからの帰り道。可愛い妻は此方を見ながら何やら心配そうだ。というのは、スーパーでエコバック二つ分と、さらに急遽お一人様一つ限りの6個入りトイレットペーパーを二つも買ってしまったからだ。そしてそのうち、劉邦はエコバック二つとトイレットペーパー一つを持っている。はた目には大きさのためいっぱいいっぱいに見えるのか、可愛い妻は眉を曇らせ心配そうだ。しかし大量に見えても所詮スーパーの買い出しである。普段はもっと重い物を持たされることもある劉邦にはこのくらい軽いものだ。むしろ妻が持っているもう一つのトイレットペーパーも持ってやりたいくらいだが、頑としてそれは譲らないようだ。きっと此方を気遣っているつもりだろう、可愛いことだ。
「‥ありがとうございます」
「はは、わしもお前の役に立てて嬉しいぞ」
「ふふ。では今日の夕飯は、頑張ってくださった我が君のためにいつもよりも頑張ってお料理を作りますね」
我が君のお好きなイカのお刺身も買いましたし、あぶらあげもありますからワカメとネギのお味噌汁も作れますよと楽しそうに妻は喋っている。そんな様子を見ていると、ついつい目尻が下がってしまう。そしてあんまり可愛らしいものだから、またついついイタズラをしたくなってしまう。そっと小振りな耳に口を近づけると、とびきり艶っぽい声で言ってやった。

「夜のデザートも、期待しておるぞ」

そうして顔を見ると可愛い妻は耳を真っ赤にして立ち尽くしていた。昼日中から夜の話をされて、清純な妻は困り果ててしまったのだろう、視線が不自然にあっちに行ったりこっちに行ったりしている。可愛いくて、愛らしくて、キスしたくてたまらない。が、白い大きなマスクが邪魔をしている。ひっぺがそうとしたら「駄目」と強く拒否されてしまった。耳に引っかかっているゴムを外されないように両手で耳を慌てて隠して「花粉が飛んでます」と言われた。
「我が君が何と言いましょうと、外ではマスクは外せません」
憎いかなマスクの奴め。いや、杉の奴だろうか。とにかく、自分より優先されているマスクや杉に本気で嫉妬してしまいそうだ。
しかし、次の妻の一言は劉邦の機嫌を一転させた。耳元まで口を近づけるとマスク越しに密やか声で囁いてきた。




「そのかわり、お家の中では、いっぱい愛してください」




それだけ言うと妻はすっかり、マスクに隠れていないところは全部真っ赤にしてしまった。

なんと愛らしいことだろう。今すぐにこの可愛らしい妻をめでていとしんで愛したい。が、家の中という約束なので仕方ない、可愛いおでこにキスを一つ落とすだけで我慢しておいた。可愛い可愛い自分だけの子房に、家に帰ったら、たくさんたくさん愛を送ってやろう。
日曜の、ある晴れた日のことだった。



《終》

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