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コメデレラ~ある王子との死闘~(樊孔)

樊孔のシンデレラパロギャグです。色々ツッコミどこ満載です。



今は昔、ある中流家庭に諸葛孔明という見目麗しい妙齢の娘(※男)がおりました。

孔明の住む、あるのかないのかよくわからない収入の割にだだっ広い屋敷には孔明の他に三人の同居人がいました。
継母(※男)・セルバンテスに、義理の姉(※男)がふたり、レッドとヒィッツという人達です。

何故に孔明が血の繋がらない人達とひとつ屋根の下にいるのかというと、実は彼らは孔明の父(未定)の後妻とその連れ子達だったのです。はじめは新しい家族五人、まぁそれなりに家族らしい(父・母・子という構成員が揃っている)生活を送ってきたのですが、ある日突然、孔明の父が急な病でポックリ逝ってしまったのです。

さて父が亡くなると血の繋がった親子たちは血の繋がらない孔明をちょいと苛めてやろうかと思いたち、姑息な策を練ってみたり、悪どいイタズラを仕掛けてみたりしたのですが、実は孔明とはこれ神算鬼謀を編み出す頭脳と三寸不乱の舌の持ち主。継母と義姉の悪巧みの五歩も六歩も先を読み、四方に群がる罠の全てを津波のような勢いで継母と義姉のもとに押し返してしまったのです。

よって孔明は大した屈辱を味わわされることもなく、表面上では穏やかな日々を満喫し、裏では、父から継母に名義が書き換えられていた土地と屋敷の権利を如何に此方に取り戻すかという緻密な作戦を練っていたのです。


そんなある日のことでした。


うららかな陽光のなか、一通の上等な厚手の紙と封筒で作られた、印泥で封をしてある立派な手紙が家にもたらされました。
曰く、『この度我が国の王子の生涯の伴侶を探すべく舞踏会を催す故、国にいる娘は全て是の舞踏会に参られたし』と。



「くだらないですな」

呼び出された居間でセルバンテスからその話を聞いた孔明は眉間に蜀の谷のように深い皺を刻んだ。どうしてわざわざこんな話を報告しに来たんだとその顔が語っている。証拠品とでもいうように孔明に差し出された手紙は無造作に破り捨てられた。苛々している様相が有り体に感じられる。
そんな顔の目の前で、ふふっと面白さを隠しもしないような笑みをセルバンテスは浮かべた。
「孔明だって年頃だからね、念のためだよ」
玉の輿は嫌いかい?と蜜のように甘い猫撫で声で聞いてくる。
「興味ありません」
私が興味あるのはこの屋敷と土地の権利だけです。と、孔明はちっとも笑っていない策士の目で例の総身が震え上がるような極悪な笑い声をあげたものだからセルバンテスは堪らない。背中にひやりと一筋冷たい汗を流すと「まぁ一応報告はしたからね」と、
「私たちは当日(飯目的で)お城まで行ってくるけど孔明は‥」
「留守は私にお任せ下さい。ご安心を」
セルバンテスの言葉を皆まで聞かずに切って捨てると孔明は不快な話は早々に切り上げるべきだというような感じでさっさともと居た自室へ引っ込んでしまった。
孔明との対峙はやはり物凄く疲れるようで、気付いたらセルバンテスはひとつ大きなため息をついていた。孔明の去ったほうをちらりと一瞥すると実子ふたりの待つ部屋へと歩を進めた。



それから数日後の朱と藍の混ざった日の沈むほんの少し前の刻限。
城にいくのだからといつもよりも少し豪奢な衣装を身に纏った継母セルバンテスと義姉レッドとヒィッツは屋敷の前に呼んだ馬車に今しも乗り込むところであった。
律義と言ったら正しくはないだろうが、一応律義に孔明は継母と義姉たちを見送りに出てきていた。
「帰ってこなくてもかまいません故、」
存分にお楽しみください、と非常に素敵な笑顔で孔明がそう言うものだから義姉その一レッドはドSの血が疼いてこの作り物の笑顔を泥沼にうずめてどん底に貶めてやりたい気が起きたが、そんなことしようものなら逆に底なし沼にコンクリで固めてぶちこまれ無間の業火燃え盛る地獄の内に引きずり込まれるような最凶最悪な報復をためらうことなく実行されそうな気がしたので黙っておくことにした(なのでこのイライラはヒィッツにぶつけることにした)。
「残念ながら明け方までには帰ってくる予定だから、大人しく待っててね」
面倒は起こさないのが一番とセルバンテスはレッドとヒィッツを馬車に押し込むと自分も乗り込み、さっさと馬車は城への路をゴロゴロと車輪の音を響かせて走っていった。
馬車が豆の粒よりも小さくなった頃、孔明は深いため息をひとつついた。
「まったく、くだらない」
ぽろりと言葉が唇からこぼれていた。



屋敷へ戻った孔明は部屋で読書に耽ることにした。
分厚い六法全書のページ一枚一枚を、伝票の計算でもしてるのではないかというほどの速さで捲っていく。
これも全てはあの継母から屋敷と土地の権利を奪回するため。かつて会得した速読のスキルがこんな時に役立つとはと法律の穴探しをしらみ潰しに、常闇のなかから真珠を見つけるようにこと細かに探していた。
白雪のような手が紙を捲るなか、ランプの揺れる灯火で浮かび上がる白磁の肌と細かな睫毛に縁取られた黒い輝きは妖しい魅力をたたえていた。


「まぁいけません!こんな大事な時に本とにらめっこだなんて!」


自分しかいないはずの部屋の中に突然響いた幼い女の子の声に珍しく驚いた孔明はすかさず音のした方を振り向いた。
するとそこには大きなくりくりの目をした栗色の髪の十歳ほどの見覚えのない女の子が立っていた。
「サニー・ザ・マジシャンと申します。魔法使いです」
幼女は丁寧に名乗るとすぐさま孔明に訳の分からない説教をはじめた。
「今日はお城での舞踏会なのですよ?世の中の乙女の憧れのイベントなのですよ?なのにお部屋でただご本を読んでいるだけだなんてもったいないでしょう」
きれいなドレスを着て、かわいらしい馬車に乗って、そしてすてきな王子様と出会える乙女のビッグチャンスなのですよ!少女は力説する。
「ですから私は魔法の力であなたを舞踏会に参加させてあげたいのです」
頬を紅潮させ興奮ぎみにサニーはそう言った。ドレスがないのなら私が用意します、かわいらしい馬車も先に用意しておきました、お留守番は必要かしら?とここでようやく、あまりにも此方を無視した申し出に思わず唖然としてしまっていた孔明はこの夢見る少女に反論する気力を取り戻した。
「私は出たくないのです、ありがた迷惑です、私のもとに来るくらいなら本当に出たくて出られない娘さんの所に行った方が喜ばれますぞ」
孔明にしては正論を言ったつもりだったのだがサニーはそうは受け取らなかったようでころりとしたかわいらしい笑みを顔に浮かべた。
「あら、遠慮なんかなさらなくていいのですよ」
それに私が助けたいのはただの乙女ではなくて孔明様なのです、と言う。
名前を教えた覚えはないのにとか、どうして私をとか、私は決して乙女ではないとか色々な疑問(+ツッコミ)をそのセリフから孔明は発見したがサニーの勢いの前にはそんなものは木端微塵に跡形もなく砕け散った。
サニーが指先をひとふりするとあっという間に孔明の服は普段着から、シルクをクリーム色に染めたやさしい色の、裾には紺色のラインが入った柔らかなドレスに変わっていた。胸元には赤い宝石が輝きを放っている。
「仕上げにこれを履いてください」
サニーの両手のなかには一際美しく透き通ったガラスの靴があった。
これを履いたら最後、嫌が応にも、引きずってでも舞踏会に連れて行かれるのは目に見えている。孔明は断固たる決意で靴を履くことを拒否したが夢見る女の子のオトメチックパワーには勝てず、泣く泣くその靴を履くこととなった。
「お留守番は必要ないようなので私もお城までついて行きます」
なんだか孔明様、私が見ていないと途中で逃げ出しそうな気がして‥と孔明はまさにしようとしていたことをズバリと当てられてしまい、しかも逃げ道まで完全に塞がれてしまった。
連行されるようにサニーが用意したというかわいらしいカボチャ型の馬車に乗って孔明は、本来行くつもりは全くなかった城への路を行くこととなった。
走ること少し。
ほどなく馬車は城の前に着いてしまった。遅れて到着した馬車は孔明のものしかなく、衛兵の注目は自然と全てそのカボチャの馬車に集まってしまった。こうなっては孔明は針のムシロに座らされたような心境である。
「さぁ、いってらっしゃい」
生き生きとしたサニーは孔明を無理矢理馬車の外に押し出した。おかげで孔明は前につんのめった形になり、危うくべちゃりと転んでしまうところだった。
もう腹をくくるしかないかと、こうなってしまっては逆に堂々と、むしろふてぶてしいような感じで孔明が階段を上っていくとふいにまだ馬車のところにいるサニーから「あ!」という声があがった。
「十二時になると魔法が切れてしまいます。ですから十二時の鐘が鳴り終わる前に舞踏会から抜けてくださいね」
サニーが笑顔で手を振っている。それを聞いた孔明が十二時とは言わずせめて十一時とかもう少し早く魔法の効果が切れないものかと心のなかで文句を言ったことは言うまでもない。


孔明は舞踏会の会場である巨大な広間に通された。専用オーケストラの生演奏に雲のような高さの天井から下がる無数のきらめくシャンデリア、孔明の家ほどの広さの部屋に色とりどりのドレスを着た娘たちがパートナーとダンスを踊ったり、おしゃべりをしたり、はたまた料理を食べることに夢中になっていた。
「なんだ、孔明じゃないか」
耳に馴染んだ声が鼓膜を震わせた。振り向くとそこには高そうな料理を富士山のようにうず高く積み上げた義姉ヒィッツと、同じく義姉のレッドがいた。レッドの皿にも食料が積み上げられていて、さながらこちらはエベレストである。
「あれだけ行かないと強情張っていたのに来たのか、とんだアマノジャクだな」
レッドの言葉に孔明は尻尾を踏まれたネコのように怒りを顕にした。
「来たくて来たわけではありません!」
ふいに大広間にざわめきが起こった。オーケストラの演奏も止まり、人々の埋めつくす空間にはひとつの靴音と先ほどから続く孔明の罵声だけが響いていた。
「それにしてもあの少女はひとの話を聞かないにもほどがあります!今からあれでは将来も…レッド殿貴方も、聞いているのですか?」
目の前のレッドの顔は明らかに怖気を含んだものになっている。孔明の愚痴が原因とは思えない。レッドの隣に立つヒィッツはまたレッドよりも酷いもので顔面蒼白、冷や汗をかき、口をあんぐりと開けて震える指で孔明の方を指さしている。
「孔明、ゆっくり、振り向いてみろ…」
揺れる声でヒィッツが妙なことを言った。後ろに何かあるのかと孔明は言われるままに後ろを見た。
すると目の前には長身の自分よりもはるかに背の高い、どぎついピンク色のマントを身に纏った男が立っていた。その顔を見て孔明はハッとした。
肩まであるざんばらの頭に太い眉、柔らかな目と顔に刻みこまれた深く長い皺。そしてもみあげと繋がった、顔全体を縁取るように生やされたヒゲ。
孔明はこの男を知っていた。


「……王子……様…」


見た目は老けて見えるがこれでもれっきとした一国の王子。名を樊瑞という。
「未だにその呼ばれ方をするとどこかむずむずしてな、樊瑞でいい」
どこか照れ臭そうな感じで樊瑞は言った。
優しく、器が大きいことで国民からの人気が絶大な樊瑞であるが何故だか孔明はこの人物が好きではなかった。
できるなら絡まれたくなかった人物の出現に伝説の三寸不乱の舌も滑舌が乱れずにはいられなかった。樊瑞は孔明の、手袋越しにも薄いとわかる手を取ると、最悪の展開に血の気が引いている孔明に対して熱を帯びた声音で止めのひと言をおみまいした。


「儂と、一曲踊ってくれぬか?」


くらり、と視界がぐるりと回ったような感じがした。が、あくまで気がしただけであり、実際孔明は倒れてもいないし、逆にこの大広間が回転したわけでもない。目の前には間違った情熱の炎を瞳に湛えてしまった樊瑞が変わらず孔明を見つめていた。
本来孔明は無情なひとである。他人に情けをかけることなど極力しないのが常であるが、今回の相手は王子である。大衆の面前で仮にも一国の王子の誘いを…できることなら断りたいが、王子の体面を考えてやると断ることはできなかった。孔明はしぶしぶ、王子の誘いを受けた。



「……ワルツしか踊れませんが?」
「あぁ、それはよかった。実は儂もワルツしか踊れんのだ」
樊瑞は殊更にニコニコとした表情を孔明に向けた。何がそんなに嬉しいのか、そんな顔を見ていると孔明は面倒なことに巻き込まれたという苛立ちを感じたがその他に、少しの気恥ずかしさからかいつの間にか自らの頬がほんのり熱くなっていることにも気が付いた。
肉厚で大きな手が孔明の腰に回ると孔明も薄い手を樊瑞の肩に置いた。
革の靴とガラスの靴がワルツのステップを奏でるとそれまで静まっていたオーケストラが弦を引いた、周りにいた人々もその音色に誘われるように次々とワルツを踊りはじめた。
星のように煌めくシャンデリア、流れる高尚なオーケストラ。
ダンスの相手は王子様。
夢見る少女が思わずうっとりするようなまばゆい光景だが当の孔明は勿論うっとりなんぞはしていなかった。自らに注がれる樊瑞の熱視線に辟易し、此方からは樊瑞へ嫌悪の情のこもった視線を送り返した。が、周りに孔明のそんな気持ちがわかるわけはなく、ギャラリーはこれを『王子と見初められた娘さんの熱いアイコンタクト』と認識していた。
しかし一方の樊瑞はその触れなば殺すような視線をものともせずに孔明に優しく話しかけてきた。
「実は、是非見てもらいたいものがあるのだが、」
この曲が終わったら来てほしいと樊瑞はいう。
来てくれぬか?とか此方の意志を問うでもなく一方的にも聞こえるもの言いに孔明は少なからずムッとしたがしかし、まもなく水面の波紋が消えるように曲が終わった。
孔明は樊瑞から逃げるように手を離そうとしたが逆に強く握られてしまい、そしてあっという間にその逞しい腕のなかに横抱きに、いわゆるお姫様だっこをされてしまった。
突然のことに神算鬼謀を作り出す孔明の脳もさすがに混乱が生じた。頬はりんごのように真っ赤になり、どうしたらよいのかわからずに、腕のなかで右を見たり左を見たりもうパニックである。
「ちょっ、お待ちなさい…樊‥!」
「儂は抜けるが皆、よく楽しんでくれよ」
それだけいうと樊瑞はピンクのマントを颯爽とひらめかせて文句をわめきたてる孔明をさっさと目的の場所に連れだしてしまった。
大広間に残されたたくさんの人々は何だか不満たらたらで王子に連れていかれた娘さんを、玉の輿に乗れ羨ましいと思いこそすれ、不憫に思っている人はひとりもいなかった(ちなみにこれを見たセルバンテスは飲んでいたワインを笑いで吹き出しかけた)。



下ろしてください、せめて自分で歩きますと孔明はなんとかしてその腕のなかから逃れようと試みたが、まぁもうすぐ着くから待てと、樊瑞の力はすごいもので孔明くらいの力じゃ全く歯がたたなかった。
しかし言葉通りまもなく目的の場所に着いた。星の瞬く夜空の下、きらめく白亜の噴水に陽の光のもとならさぞかし美しいであろう緑の生える中庭に孔明は下ろされた。今宵は満月のようで、月の明かりが思っていたよりも明るかった。
「ここは儂が一番気に入っている場所でな、」
孔明の横に立つ樊瑞が言う。
「お主に見せたいと思った」
冷たい夜風から守るように温かい手が孔明の肩を包んだ。
孔明は樊瑞の手を払うことなくそのまま心地よい腕のなかにいた。
外は少し肌寒い、と思っていたところだった。
「‥‥なぜ、私を?」
孔明は自分の国の王子なのだから一応、樊瑞のことを知っていた。しかし実際に会うのは初めてのはずである。なのに何故、こんなに自分に執心するのか不思議でならなかった。
「初めて見た時に、お主だけが輝いて見えた。お主こそ儂の――、」
孔明の細い顎に太い指がかかった。優しい力で顔を上に向けられ、ここにきてはじめて、樊瑞とまともに目線を合わせた。
「孔明‥」
樊瑞の顔がゆっくりと近づいてくる。近づくにつれ、まぶたは閉じられ、今はもう完全に目をつぶっている。それに合わせるように孔明もゆっくり、まぶたを閉じ樊瑞に身を委ねようとした、その時!


闇夜を打ち消す、ゴォ~ンという重い鐘の音が辺り一面に鳴り響いた。
ハッとした孔明は目を開いた。
今、自分は何をしようとしていた?
ゴォ~ンともうひとつ鐘が鳴った。
先ほどまで自分はどうかしていたのだ、そもそも相手が王子だからといっても、嫌なのものは嫌とダンスもさっさと断ってしまえばよかったのだ。
ゴォ~ンとさらに重い音が響いた。
その前に何故、名前を知っているのだ、此方から名乗った全く覚えはないのに。
ゴォ~ンと四つめの鐘が鳴った。
その時には樊瑞の顔がもう目と鼻のさきほどの距離にあった。


「―――っ‥!!!」


気付いた時には孔明は履いていたガラスの靴の片方をひっ掴み、それで樊瑞の頭を力の限りぶん殴っていた。樊瑞は崩れ落ち、ガラスの靴は粉々に砕け散った。
そして孔明はハッと気が付いた。今自分を現実に引き戻してくれた鐘の音は十二時を知らせるために鳴るものではないか、と。
十二時なんて無駄に長ったらしいと思っていたはずなのにいつの間にこんなに時間がたっていたのかと恥ずかしい気持ちがおこり、片方だけでバランスの悪くなったガラスの靴を脱ぎ、手に持つと樊瑞に連れられてきた道を猛ダッシュで駆け戻った。

大広間では王子の見初めた娘の突然の逆走に皆が皆唖然とした。レッドだけが「おい、どうした?」と声をかけることができたが孔明は立ち止まることなく「帰ります!」とだけ言い残すと普段からは考えもつかないような疾風のような速さで広間を走り去ってしまった。

城の門のところには、来た時同様にサニーとサニーが用意したかわいらしいカボチャの馬車が孔明を待っていた。馬車に乗り込むとサニーがニコニコと恋路の様子が気になる女の子の表情で「舞踏会はどうでした?」と聞いてきた。
「そんなことどうでもいいから早く出して下さい!」
「まぁせっかちですね。ではあとでじっくり聞かせていただきます」
出してくださいとサニーが馭者に一声かけるとゴロゴロと車輪の音を響かせて馬車は城から遠ざかっていった。


屋敷に到着したあとの孔明がサニーにじっくり舞踏会での首尾を尋問され、やっと帰ったあとは今日のこの夜の悪夢を思い出し、屋敷の周りにお清めの塩を大量にまいたのは言うまでもない。



さて翌日のことである。


孔明は昨夜のことはキレイさっぱり忘れて普段通りの、屋敷と土地の権利の取り返しに精を出す毎日に戻ろうとした。が、ふいに昨夜持ち帰ってサニーに返そうとしたがそのまま無理矢理持たされてしまったガラスの靴のかたわれを思い出した。
こんなもの持っていてはいつ城から使いがやってきて王子をぶん殴った罪に問われるかわからないと、裏庭までいくと薪を割るための木の台の上にガラスの靴を置き、二、三回力を込めてトンカチで靴を粉々に砕き、完全なる証拠隠滅を謀った。
これで後顧の憂いは全て取り除けたと雲ひとつない青空のもと、孔明はほっと我が胸を撫で下ろした。
しかし落ち着いていられたのもごく僅かな間でバタバタとした足音と共にレッドの大きな声が屋敷内から孔明を呼んだ。

「おい、王子が来てるぞ!」

地獄の使者からのようなその言葉を聞いた瞬間、孔明の顔からサァーっと血の気が引いた。
早く逃げねばとそのままの格好で裏庭から駆け出そうとしたがその時、屋敷の裏口からピンクのマントをはためかせた男が自らのもとへやってくるのを見た途端、孔明の顔色はいよいよ悪くなり、遂には上質紙のようなまっ白になってしまった。
「孔明!」
孔明が王子の登場というこの事実に一瞬呆然としてしまっていた間に、はやくも樊瑞がつい十歩ほどの間合いまで迫ってきた。
逃げようと後ろを向いた時には既に昨夜も包まれた温かな優しい腕のなかに今日も捕らえられていた。
「昨夜のあれは、ちと痛かったぞ」
樊瑞の言葉に孔明は自然に眉根の寄った顔をあげた。
「何かご用ですか?」
「つれないことを言う、お主を迎えにきたというに」
「頼んだ覚えはありません」
ぶっきらぼうに孔明が言うと樊瑞は何やらごそごそと己が内ポケットを探りだした。
「孔明、これを覚えているか?」
そう言って樊瑞が取り出したものは昨日の今日で忘れるわけのない、昨夜樊瑞を殴り倒したガラスの靴の片方である。確かあの時粉微塵に砕け散ったはずであるのに、どうして今こうしてまた形となっているのか。
「あのあと儂の仙術で元に戻した」
仙術‥と聞いて孔明はそんな馬鹿なと思ったが、一時期王子が山に籠って仙人になる修行をしているという妙なウワサが巷間に流れていたことを思い出した。
「まさか…」
「ム、お主もう片方も壊してしまったのか?」
仕様のないことだと笑いを含んだ声で言うとムン!と一声、先ほど孔明が力の限り砕いたガラスの靴がみるみるうちに元の形を取り戻していった。
キラキラと燦々と煌めく陽光を反射する靴を一組にすると樊瑞は孔明の前に跪き、履いてはくれぬか?と問う。真摯な樊瑞の態度に、孔明は心が揺れるのを感じた。
「……貴方といると、どうにも調子が狂います」
ひとつ深いため息をつくと孔明は今履いている靴を脱ぎ、樊瑞の差し出すガラスの靴に白い足を差し入れた。
するとどこからともなく不思議な光が孔明の周りを取り巻き、気がつくと着ている服が昨夜のドレスになっていた。
「儂と共に来てくれぬか?」
その言葉と共に樊瑞の手が目の前に出される。その手を取るか、取るまいか、孔明は少し戸惑いをみせたがやがて自らの意志でその手の上に我が手をのせた。



すると急に周りからワーとかキャーとかちょとした歓声があがった。よく見ると屋敷の裏口からはノゾキのように孔明と樊瑞を伺っている四つの影が見えた。セルバンテスとレッドとヒィッツ、それに何故かサニーの姿まであった。先ほど孔明の服が急に昨夜のドレスに変わったのはサニーの仕業であろう。
目の前で起きた物語のような出来事にオトメチックな少女はたまらずキャーキャーしながら頬を紅潮させ「これでよかったのですね、おじ様!」と興奮した声をあげている。
セルバンテスはセルバンテスで「まったく孔明はさっさと素直になっていればよかったのに」とにやにやとした笑みを湛えている。
「これで満足なんだね?王子様」
「うむ、世話をかけたな」
セルバンテスと樊瑞、そしてサニーの言葉に孔明は全てに合点がいった。
「あ、貴方たち最初からグルだったんですか?!」
「グルじゃなくて協力者だよ」
セルバンテスは言う。報酬もちゃんと貰うしねと口を弧状に曲げ、指もくるっと丸を作る。
「私もおじ様の恋を応援しただけです」
大きな瞳をきらきらと輝かせて、夢見る魔法少女サニーは言う。こんなおとぎ話のような恋が本当にあるのですね。
「待ってください、樊瑞殿、貴方と会ったのは昨日が初めてでは‥」
「うむ、向かい合ったのは初めてだがな、以前儂はお主を見かけたことがある、それが最初といったら最初か」
感慨深げにしみじみと昔を振り返っているような樊瑞に孔明は困惑を隠せなかった。
「一体、いつ……」
「もうかれこれ半年ほど前になるかな‥」
ふらりと外を出歩いた(※おしのびなのでマント着用ナシ)時に見かけた凛とした姿に心奪われてな、それ以来何をするにもお主のことが思い出されてしまい完全に上の空だったと樊瑞はいう。
「………離してください、止めます!やっぱり貴方と一緒になんて行きません!」
本来自分は騙す側であるのに、ひとりだけ騙されていたような気がして何だか孔明は腹がたってきた。外野から「俺は知らなかったぞ」というレッドとヒィッツの野次が入ったがそんなことは孔明にはどうでもいい。
「孔明」
「なん…っんむッ!?」
樊瑞に名を呼ばれたと思ったら突然唇を塞がれた。触れるだけでない、濃厚な口づけに思わず意識が飛びそうになった。ちなみにこの光景、サニーにはまだ刺激的すぎるかとセルバンテスが手で目を塞ぐという配慮にでた(そのために「見えません!」とサニーから苦情と蹴りとパンチが浴びせられることとなった)。
唇が離れると樊瑞は惚けた顔をしている孔明をあっさりと昨夜のようにお姫様だっこにして抱えるとそのまま城へ帰ろうとした。正気に戻った孔明がまた、おろしてください離してくださいと暴れているのを宥める樊瑞を見てセルバンテスはため息をひとつ。
「それじゃ王子様、孔明、お元気で。これで私たちもこの屋敷と土地でのんびりと安心して暮らせるよ」
そんなセルバンテスに、達者で暮らせよと応える樊瑞。まさか最初からこれが目的でと柳眉を逆立てる孔明。
「では孔明、明日は式で明後日からはハネムーンだ」
樊瑞のその言葉に待ってください私はまだ、という言葉が聞こえるが樊瑞は有無を言わさずそのまま城への道をシュタタタとものすごい速度で走り去ってしまった。



これでこの話は終わります。以後樊瑞と孔明がどうなったのかについての話は読者である皆さま方のご想像にお委せします。ただしこれだけは言っておきます。一国の権力を操る位置に立った孔明でしたが、ここでは北伐とかそういった苦労は一切せず、それなりに平和な日々を過ごしました。他の苦労については存じ上げませんが。


《終》



某SNSサイトの無料ゲームでシンデレラネタのものがありそれをやったときふいに思い立ったネタです。

ギャグなのにえらく文章がつまってしまいました(いつものこと)。いつも丈は小話をケータイのメールで打ってるんですがひとつじゃ収まりきりませんでしたよ(震)いやその前にギャグに徹しきれていないか…樊孔シーンになった途端ロマンスに(笑)

ワルツの件は実はただ単に丈がワルツしか知らなかっただけです。ワルツの他に知ってるのがサンバとチャチャチャだけって…シンデレラじゃ使えないだろ(笑)!

夢見る少女サニーがえらい勢いで暴走しましたね、てかサニーの喋り方がわからなくなって途中書いてるとき「ですわ」口調になってました(笑)

王子樊瑞とか打ってて普通に吹きそうになりました。

継母のバンテスおじさんは、いい具合に策士をいじってくれるひとがほしかったための配役です。義理の姉レッドは策士をイジメようって発想を出す係です。ヒィッツは腰巾着(そのためかセリフがひとつしかない悲劇が)。父に関してはマジで誰も考えてません(面倒だっ/以下略)。誰かいいひといませんか~(笑)?

わざわざこんな端っこのほうまで読んでくださってありがとうございました!

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